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「すること」と「しないこと」(その1)

更新日 2023年5月16日

 私が支援会議に出席する時には、指導員に話を聞くことに加え、そのお子さんの支援記録を何ケ月分か読みこみます。直接支援を行わない者としては、細かな様子までは分からないことがあるためです。続けて読んでいくと、折り紙で端と端を上手に重ね合わせることができるようになった、小数のかけ算で小数点をつける位置を間違えることがなくなってきた、SSTでこんな心温まる答えをしてくれたなど、伸びてきている様子が見えてきます。それをポイントを絞ったうえで発表内容にまとめていきます。お子さんたちが力を伸ばしていく様子が見えると、とても嬉しくなります。

 その反面、記録を読んでいて疑問に思うこともあります。例えば、面談に来ていただいたときに園への行きしぶりのお話が出ていたはずなのに、最近話題になっていないのはなぜだろう、もう問題になっていないのだろうか、といったことがあります。

 お子さんたちの様子を見ていると、実際に起きている(大人にとっての)困りごとについては、周りの人が容易に気付くことが多く、何か対応をしたくなります。しかし、そのお子さんがしないこと、やらなくなったことについては、注意していないと気が付かなかったり見落としてしまったりします。実は、この面にこそ、そのお子さんの姿を捉えるための大切なポイントが隠れていることがある、というのが私の思いです。

 ずいぶん前に出会った、ある小学校3年生の男の子(きらりのご利用者ではありません。)についてお話します。生まれた時から家庭環境の面でとてもつらい思いをしていて、学校に来ても人とのかかわりをうまく持つことができず、教室で学習をすることも難しため、校内を歩き回っている時間が長く、担任以外の先生がいつも一緒に行動している、そんなお子さんでした。高学年のお子さんたちが気にしてこのお子さんに声をかけると、大抵言い合いになり、このお子さんは、「いじめられた。」と大騒ぎしていました。その結果、なおいっそう上級生との関係が悪くなるという悪循環に陥っていました。

 ところが、上級生からはこのお子さんへの訴えがたくさん出てきたにもかかわらず、不思議なことに、このお子さんより下の年齢のお子さんからは一切そういった訴えがなかったのです。年下のお子さんたちにとっては、とても優しくて頼りになる、楽しいお兄さんだったのです。

 このお子さんの場合、いじめられたと大騒ぎしている姿や、校内をうろうろしている姿が強烈であったために、年下の子に対する優しさに目を向ける人が少なかったのは、このお子さんにとって不幸なことでした。こういった良い面がもっとクローズアップされていれば、本人の気持ちももっと柔らかくなっていたかもしれません。

 行われたことだけではなく、行われなかったことを分析することの大切さを、私は大学での専門課程の政治学の授業で学びました。内閣総理大臣が施政方針演説を行うと、その内容が新聞で報道されますが、こういう内容が何分語られた、というだけでは分析としては不充分で、総理大臣が触れなかった、あるいは、もっと時間を割いてもよかったはずなのに短時間しか扱わなかった内容について分析することで、演説の意図がより深く見えてくる、という考え方です。何が何分語られたかは、時間を計るだけで事足ります。しかし、触れなかったことは注意深く考えてみないと気が付きません。

 お子さんの様子について考える場合も同じようなことがいえます。お子さんが取り組んでいること、特に大人にとっての困りごとについては、すぐに目につきます。でも、以前はしていた困りごとをこの頃はしていない場合については、注意していないと見落とします。お子さんの褒めどころが、ここにも隠れています。こういった点を見つけて褒めるのです。我慢できるようになったね、泣かなくなったね、癇癪を起しても大きな声を出さなくなったね、すごいね、など、言葉に出して、できるだけ具体的に伝えてあげたいと思っています。そのためにも、お子さんたちの様子を注意深く見ていきたいと考えています。

 繰り返しになりますが、「しないこと」は意識して見ていかないと気が付きません。たとえば、家で思い通りにならないと激しい癇癪を起こす、という場合を考えてみましょう。家で、思い通りにならない場面はほかにもあるはずですが、そういった場面でも同じように癇癪を起こしますか。癇癪の程度に違いはないでしょうか。園や学校で思い通りにならないときのお子さんの様子はどうでしょうか。

 また、こういう考え方も出来ます。癇癪を起こしてひどく荒れているときに時には注意したくなります。この時点で声をかけてもいいのですが、怒りが爆発したことを叱るのではなく、少し落ち着いてきたところで、よく我慢したね、今日は大きな声を出さなかったね、えらいね、と声をかける方法もあります。

 お子さんの姿を常に見守っているのは不可能ですので、時間のある時だけで結構です。少し視点を変えてみませんか。お子さんの気が付かなかった一面に巡り合うことができるかもしれません。【山】(その2に続く)

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