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その子に合った支援?(その5)

更新日 2023年2月4日

 養護学校のお子さんの話に戻ります。このお子さんのマラソン大会に向けた取り組みの中で、同僚の先生に小言を言われても自分は正しいと思って進めることができたのは、自分なりに考えた根拠があったからです。かつて私が心理療法を学んでいた頃に出会った行動療法、特に系統的脱感作法の考え方(そのままではありません)をヒントにしました。脱感作法とは、不安(神経)症の方への対処法として開発された技法で、不安の程度により階層表を作り、不安の弱いものから取り組んでいく、という方法です。(あまりに簡単で不十分な説明で申し訳ありません。現在の応用行動分析(ABA)に、私は行動療法の考え方を色濃く感じるのですが、果たして正しい理解でしょうか。)A君に、この考えを直接応用することはできないにしても、本人にとって不安やいやいや感が少ない活動から始め、徐々に負荷のかかる運動へと進めていくことで、マラソン大会という高いハードルを乗り越えることができるのではないか、と考えました。そこで、負荷の少ない活動からスモールステップで取り組み始めたわけです。

 こういった考えがあり、私なりに先の見通し、どうやってハードルを上げていくかの見通しが持てていたため、周りからいろいろ言われても自分を信じて進めることができました。もしこういった根拠を自分が持っていなければ、周りから何か言われたときにすぐに諦めたり、取り組む方向がその時によってぶれたりしていたはずです。前回ご紹介した、Cの「支援内容に対する自分なりのしっかりとした考えがあって取り組んだ場合」とは、例えばこういうことです。こういう考えがあることで、その人はぶれずに進めていくこと出来ますし、仮にこの方向が間違っていたと分かった場合には、何が違っていたのかを考え、解決のヒントを得ることができます。とはいえ、この頃の私にも問題があったと、今は思っています。このように考えてこう進めたいんだ、という自分の気持ちを、もっと発信すべきだったのに、それを怠っていました。もっと周りの理解を得るべきでした。ただ、周りが特別支援教育に関して、私よりベテランばかりだったために、言いずらかったという面もありました。今の北長野校に、そういった言いずらい雰囲気がないようにしなければいけないのですが、果たしてどうでしょうか。

 もう1点、振り返って考えてみて、A君とのかかわりの中で自分が変わったのではないかと思うことがあります。A君に初めて出会った頃、私の心の中で、「べき論」が強く働いていたように思います。学校に着いたらすぐに教室に行くべきだ、玄関で寝ているのは他のお子さんの邪魔だからすぐに移動すべきだ、といった考え方です。知らず知らずのうちに自分の中での行動規範をA君に押し付けていて、その規範に従ってくれないA君に対してやりきれなさを感じるようになっている自分がいました。叱りつけたくなったのは、こういった考え方に立てば当然のことです。しかし、A君にとってこういう対応を取られることは、ストレス以外の何物でもなかったはずです。寝ている自分は周りから邪魔者扱いされ、職員からは怒鳴られる、そんな状況はA君にとって耐えられないものだったはずです。こんな中でA君に自分から動くことを求めることは、求める方が間違っています。彼が自分から動ける環境を作るにはどうしたらよいか、彼の様子を見ながら私なりに試行錯誤した結果、たまたまうまくいく方法が見つかったということでしょう。一つこういうものが見つかると、お子さんは変わります。その方法を見つけるのが大変ですが、いろいろな人のアイデアもいただきながら進めていけば、一人で悩むよりも良い方法に辿り着ける可能性が高いでしょう。

 その意味で、北長野校の指導員の皆さんは、本当によくコミュニケーションをとっていて、すごいなと思っています。前回の様子はどうだったか、この内容についてはどこまでできていて次には何をすればいいか、お子さんがどんなところで困っていたか、保護者の方がこんな話をしておられたなど、頻繁に情報交換をしている声を傍で聞いていて、素晴らしいな、と思っています。とはいえ、支援に完璧ということはなく、もっといい方法があったのではないか、という思いは常にあるはずですし、そういう思いでいつも教材作りに励んでくれていると思っています。保護者の皆さんからの忌憚のないご意見もお待ちしております。よろしくお願いします。

 長い文に付き合っていただき、ありがとうございました。最後に。その子に合った支援を見つけるのはとても難しいことです。10個の方法を試みて1個当たれば上出来、それでも当たらないことのほうが多いでしょう。ただ、当たると、その子の力はぐっと伸びていきます。どんな方法がいいのか、私たちも保護者の方や園や学校の先生方、相談員の方たちなどと連携しながら一緒に見つけていきたいと思っています。その子に合った方法がきっと見つかるはずだ、と信じて。【山】(完)

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