10月21日に開催した講演会には、会場およびZoomで多くの皆様にご参加いただき、どうもありがとうございました。事前連絡や会場運営などで、皆様にご不便等をおかけしていなければいいのですが、いかがでしたでしょうか。
実は3年前、令和元年のこの時期に、山本先生に同じ会場に来ていただいて講演をしていただく予定だったところ、例の台風19号の被害で講演会は中止となりました。その時に予定していたテーマは、「発達障がいを考える」という一般的なものでした。ただ、今回は、私から山本先生に、二次障がいについて話していただきたいとお願いしたところ、保護者の方がイメージを持ちやすい内容のテーマを先生が考えて下さった、という経緯で進んできました。今回は、なぜこのようなテーマをお願いしたかについてお伝えします。
きらりにおいでになる保護者の方からは、学習支援や手先の器用さなど、いろいろなご希望を寄せていただいています。きらりは、大きく体を動かしたり外に出かけたりする活動は行っていないのですが、こういった力をつけてほしいというご依頼には、指導員が計画を立てて取り組む良さがあります。ただ、算数の繰り上がりのある計算ができる、運筆がうまくできるといった、○○ができるようになる、あるいは、△△がわかるようになるといった目標は、学校での指導目標としても成立しうるものです。学習塾でしたら、○○がわかる(できる)という目標になるでしょう。ところが、きらりで最終的に目指すところは、こういった目標の先にあると私は思っています。
私が初めて特別支援学校に赴任したとき、驚いたことがいくつもありました。その一つが、そのお子さんが将来自立した姿から順々に下の年齢に向けてつけるべき力を考えていく、という発想法でした。園の年長担当の先生は、小学校で困らないようにという思いで、お子さんたちに励ましの言葉をかけることがあると思います。小6、中3の先生も同じで、これが出来ないと中学で困る、こんなことをしていては高校受検で通らないよ、といった話し方をすることがあります。つまり、進学先の学校を念頭においてお子さんたちを引き上げようとします。ところが、この発想は逆です。高等部卒業後は就職するお子さんがほとんどなので、そのお子さんが自分の力で働いたり生活したりするためにはどんな力をつけておきたいか(当然、そのお子さんによって目標とする姿は異なります。)を考え、その力をつけるためには高等部では何をすべきか、中学部3年では、中学部1年では何をすべきか、という考え方です。
この考え方は、きらりでの支援にも当てはまる面があると思っています。算数の計算ができるようになるのはもちろん大切(この教材を学習すること自体の持つ価値の話は置いておきます。)ですが、目指すところは、計算ができたことで、自分にもできた、わかって嬉しかったという気持ちを持つことで、その結果としてそのお子さんの自己評価が上がり、自信を持つことで、他のことにも積極的に取り組んでいこうとする気持ちを持ってもらうこと、自己肯定感を高めることにあると私は思っています。お子さんの将来の自立を考えた場合、自己肯定感が高まっていることはとても大切なことだと考えるからです。
そのお子さんが将来、幸せな生活をしていくために必要なことは何かを考えた時、例えばお金の計算や時計を読むことができるとか、漢字の読み書きができるとかといった力はもちろん大切です。しかし、もしかしたらこういう力は、もっと技術が発達すれば機械がやってくれるかもしれません。しかし、自己評価が低くて自己肯定感が下がってしまったために、何に対しても意欲が持てない、失敗すると思って何もすることができないというのは、他者や機械が代わってできるものではないでしょうし、たとえできるようになったとしても、果たしていつになるでしょうか。
いわゆる「定型発達児」向けの基準でつくられた環境になかなか馴染めず、その基準とのずれに苦しむ発達障がいのお子さんたちには、日常生活を送るうえで様々な困難が生じます。そして、その困難により否定的な自己評価が形成され、自己肯定感が下がることが多くあります。これがまさに、そのお子さんが生まれ持った特性である一次障がいによって生み出された困難である二次障がいです。この困難な状態が続くと、周りへの適応がさらに困難になり、自己評価が一段と下がる、という悪循環に陥ってしまいます。このような循環から抜け出し、そのお子さんがより幸せな生活を送ることができるようにしたい、というのが、私の考える支援目標のひとつになります。
ある保護者の方から、二次障がいは必ずどこかで経験するものであるというご指摘をいただきました。残念ながら、確かにその通りかもしれません。しかし、このような負のスパイラルに陥るのではなく、自分だってできるという考え方を持っていることが、そのお子さんの幸せな生き方=自己肯定感の高まりにつながるのではないかと考え、講演会で山本先生からヒントをいただきたいという思いで、このようなテーマを設定した次第です。ご参加いただいた皆さんは、必ずや今後への何らかのヒントをお持ち帰りいただけたのではないかと思っています。
ご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました。 次回は、講演会での山本先生のお話や、保護者の皆様の質問事項に関することを書いてみたいと思っています。(続く)【山】