講演会が近づいてきました。今回お招きする講師の先生は、心理学を専門とする学者です。学者のものの見方や考え方は、私のような学校でいろいろな経験を積んできた者とは異なることがあり、勉強になります。学者のお話を直接聞く機会は意外と少ないものです。皆様のご参加をお待ちしております。
本日は、以前、ある学者から教えていただき、印象に残っているエピソードをご紹介します。その方は、今でいうABA(応用行動分析)を専門としていて、お子さんのいろいろな困り感についても助言をしておられました。なお、今回の内容は、講演をしてくださる山本先生とは全く関係がありません。
私が、全校の児童数が1000名を超える小学校で3年生の担任をしていた頃の話です。クラスのある男の子が、ちょっとした出来心で好ましくない行動をしてしまったことがあり、私は家庭訪問をして保護者の方とお話をすることになりました。家に着いてまず驚いたのは、お父さんが酒に酔っていたことでした。しかし、お話をしているうちにわかりました。お父さんは息子さんの行為が悲しくて、飲まなければいられなかったということが。
いろいろと話をした後、お母さんから、「実は、うちの子は、3年生なのにまだおねしょが止まらないんです。こんな子に育ててしまって、私の子育てが失敗だったんでしょうか。」という話が出てきました。今の私なら、そんなことはありませんと、いろいろな例を出してお伝えするところですが、当時は何も言葉を返すことができずにいました。
その後、特別支援教育について深く学習する機会があり、そこで出会った大学の先生に、この時の話をお伝えし、どう対応すべきだったかを伺ってみました。その時、こんな話をしていただいたと記憶しています。
「もっと状況を細かく調べて分析する必要がある。毎日おねしょをしているのか、それとも時々なのか。特におねしょをしやすい日はないか。例えば、月曜日とか行事の前とかにおねしょをしやすい、といったことはないか。また、おねしょの量はどうか。たくさんする日や少ない日があるのではないか。前日の生活の様子によって様子が変わることはないか。まずはこういった状況を詳しく調べてみることが必要だ。そうすることで原因がわかってくることがある。単におねしょをするというだけでは、その原因を特定することはできない。ましてや、子育ての失敗などと簡単に決めつけてしまうことは間違っている。」
なるほど、と思いました。私などは、おねしょが止まらないという話を伺うと、それは困りましたね、どうしましょうか、とすぐに対症療法を考える方向へと進んでしまっていました。お子さんの様子をしっかり観察していなかった自分を反省しました。
1つのアプローチとして、この方法は今でもいろいろな場面で役立っています。ある心配事が出てきたとき、お母さんや学校の先生方と、その様子が見られたときや見られないとき、頻度、その出来事の発生状況の違いなどについて情報交換を行います。例えば、月曜日によくこの行動が出るという場合、月曜日のいつ頃に出やすいだろうか、二時間目の休み時間に出やすいとすると、給食後の休み時間に出ないのはなぜだろう、といった具合です。「その様子が見られないとき。」というのが、意外にヒントになるものです。どうしてこの時はその行動が出ないんだろうと考えると、違った視点が出てくることがあります。
ところで、このお子さんのその後については、私が転勤してしまったために、残念ながらよくわかりません。ただ、何年かたって高校生になったそのお子さんは、甲子園を目指して野球に打ち込み、3年生の時にはチームのエースとして長野県大会で3回戦まで勝ち進んだことは知っています。その時のキャッチャーが、同じクラスで私が小1から小3まで担任した男の子。わからないものです。
きらりでも、いろいろな困り感についてのお話を伺うことがあります。もしかしたら、もっと細かく観察して話し合ってみることで、解決への糸口が見えてくる場合があるかもしれません。保護者の皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。
最後に、10月21日の講演会に、ぜひおいで下さい。まだ会場には空きがあります。Zoomでも結構ですが、会場に来ていただくことで、Zoomとは違った印象を持っていただくことになるのではないかと思います。皆様のご来場、ご参加を、心よりお待ちしております。【山】