クリスマス。
今年はコロナの影響もあり、家族や恋人と過ごしている人も多いでしょう。
私は、この時期になるといろんな人達のことを思い出します。
【仙人と呼ばれた男】
ある日、検察庁から連絡が来ました。
「相談があるのですが・・・」
検察庁の方の話では、ある男性が窃盗で警察に捕まったが、目が見えない上に、住む家がないというのです。
そして、警察で勾留しているが起訴猶予処分の予定で、今の状況では釈放後の生活の目処が立てられない。
生活保護に相談したが警察に勾留されていては申請もできない、対応してもらえないと困っていました。
そうです。
あっちでもない、こっちでもない。
たらいまわし(子供達わかるかな\(^o^)/)の状態で困った末の相談です。
検察の方にご本人に支援を受ける意思があるのか確認してもらい、会いに行きました。
警察での面会時間は15分。
短い時間で、ご本人について理解し、これからのことについて確認しないといけません。
警察署の受付で、いろんな書類に記入し、時間内に最低限確認しないといけないことを、頭の中でリハーサルして、椅子に座って待っていました。
しばらくすると警察官の方が呼びに来て、ある一室に通されました。
通された場所は、テレビでよく見る、ちょうど人が座った顔のあたりの高さに透明なアクリル板があって、中央に丸くたくさん穴が空いています。
とても小さな部屋でした。
ちょっと緊張しましたね。
「どんな人が来るんだろう?」
扉が開いて、その人が警察の方と一緒に来ました。
第一印象「えっ・・・」
小柄でやさしそうな普通のおじさんです。
白髪ですが髪の長さも普通でサラサラしています。
洋服は警察から借りたんでしょうか。綺麗な洋服を着ています。
顔などの皮膚の感じもとても綺麗です。
金澤:「はじめまして。〇〇の金澤と申します。〇〇さんですか?」
おじさん:「はい。〇〇です」
緊張しましたね〜
私の頭の中は、いろんな情報を一気に集めようと、就職面接や何かの大会に出場して出番まで待っているような感じです。
それが、このおじさんとの出会いでした。
短い時間で、改めて支援を受ける意思について確認して会話を始めました。
話した感じも普通です。
私の頭の中に1つの疑問がよぎります。
「〇〇さんはどうしてここにいるんだろう?」
悪いことをしたから捕まっているんですが、そんな不思議な感覚になりました。
そんなこんなで、15分はあっという間に過ぎました。
信頼関係も何も無いですね。確認のみです。
このおじさんとの関わりはここからがスタートです。
おじさんとやりとりして今もこころに残る言葉があります。
「ここ(警察)は、快適です。怒られるかもしれないけどホテルみたいに快適です。」
この話は長くなるので、またお話する機会があればと思いますが、よほど辛かったんだろうなと思いました。
山?家どこ?
おじさんんと面会を終えて、おじさんの家があるという住所にいきました。
あれ・・・(・∀・)・・・山なんです。
入り口どこ?
どこからどう行くの?
山なので杉や、雑木林はありますが、家はありません。
どこから入るのか?山を何時間歩いても家はありません。
なので、警察さえ見つけられなくて、本人を連れて確認にいったほどです。
あとで、検察の方に自宅を確認した状況を聞いておじさんがいう家に行きました。
びっくりしましたね。
確かに家がありました。
みなさんがイメージする家というよりは、ロッジ、テントハウス?
約3畳くらいのスペースにベットと台所がありました。
と言っても簡易ガスカセットコンロ(鍋で使うタイプ)が設置された場所なんですけど。
屋根はビニールの厚いタイプを重ねていました。外壁は木やトタンを綺麗に組み合わせています。
施工状況は、ただの廃材を使っただけではなく、とてもよい作りです。
後に、おじさんに聞いたのですが、昔、大工の仕事もしていたのでこれくらいはできるとのことでした。
少しずつ購入して作ったんだと教えてくれました。
なので、おじさんにとってここは、「家」、そしてそこで待つ猫は「家族」なんです。
しかし、結構強烈でしたね。
焼酎の大五郎しっていますか?
その空の容器には黄色い液体が入ったペットボトルがたくさんあります。
わかりますか?
答えは言いません\(^o^)/
聞きたい人は花巻校で・・・
拘留中から住む家、目が見えるようになるための病院受診、食べるためのお金を準備するために、行政に相談しました。
いやーキツかったですね。
まるで自分が悪いことをしたと錯覚するくらいの、窓口のハードル高かったです。
そして、アパートは借りられそうなんですけど助けてくれる人いません。
ブラックリストに載っているので、アパートを借りるための審査も通りません。
今の状態で山に返すわけにもいかないので、まず住む家を確保して、食べて健康に生活する準備をしたかったのですが、
そんなこんなで、結局山に返すしかないということになり、検察におじさんを迎えに行って、山に一緒に帰りました。
検察から釈放される日に迎えに行って、そのまま生活保護に申請に一緒にいきました。
おじさんは犯罪は初めてではなく、家族とは音信不通、本当に孤立していました。
生活保護では、山の家の住所は他の人の土地だから、勝手にそこに住むことは認められないと。
アパート借りられない、山の家は他の人の土地だから住めない。
「じゃあ。どうすればいいのさ!」
そこから、おじさんが目の見えない状態で、わずかな手がかりをもとに、山の持ち主を探しました。
いろんな所にいきましたね。
そんな中、ご兄弟と連絡をとることができました。
ご兄弟の方は、電話で泣いていました。
怒りと悲しみ、そして助けてあげたい気持ち、いろんな感情が複雑に混ざりあっていました。
ご兄弟は縁を切っているといいつつ、最終的にはご自身のご家族に隠して、「これで最後です」と金銭の支援をしてくれました。
すごく葛藤があったようです。
何回も同じようなことが過去にあり、その都度裏切られてきた、配偶者の方に「もう関わるな」と言われているので、家族に知られたくないんですと心の内を話します。
最終的にこのおじさんはどうなった?
病院に通うことができて、目が見えるようになりました。
これも大変でした。
目が見えない状態で公共交通機関のみで、遠くの大学病院で手術するしかなかったんです。
生活保護担当者も時に厳しくもサポートしてくれて、最終的には働くことができるようになりました。
おじさんのケースは、働きたくても、病院に行きたくても行けなくて、最終的に食べて生きていくことができず、「盗む」という選択しかできない状態まで追い込まれたんです。
おじさんにとって山の家は自分の家、猫は家族。
後にわかることですが、おじさんが住む家がある山は、昔おじさんが生まれ育った家があった場所だったんです。
何年も経ってすでに山に戻ってしまったんですが、おじさんにとってはとっても大切な場所だったんです。
そして、山に住む男=仙人と呼ばれるようになりました
仙人、あだ名です。その生活があまりにも今とかけはなれているので関係者ではそう呼ばれるようになりました。
地域の人も知らない存在でしたが、山の入り口に郵便ポストが設置され、民生委員さんから見守りを受けられるようになりました。
震災の時も、車のバッテリーを電源にして、テレビでその状況を見ていたようです。
おじさんは「停電なしですからね」とギャグのように笑いながら話します。
生活保護を受けながら、通院、食べることができるようになって、生活が安定したのでサポートは終了しました。
その後、「頭きたから生活保護やめる!」と電話してきてくれた時がありました。
それくらい、生活保護の指導はキツかったようです。
自己肯定感がない状態で、「なんでできない」「やる気がない」とズバズバ言われ、何度も心をポキポキ折られたんでしょうね。
おじさんに「サポートするから、僕(金澤)のために我慢してくれないか?」とお願いしました。
おじさんは「わかった。金澤さんに頼らなくてもいいように頑張る」といって電話を切りました。
相談する人もいないんです。
生活保護で金銭的な部分はなんとかなっても、それだけではやはりダメなんです。
後に、「俺、コンビニで働くことになったんだ」と教えてもらいました。
とても嬉しく思った反面、働いてお金を稼ぐようになると、生活保護も外れます。
あれから、数年経ちます。
「〇〇さん。元気にしてますか?」
「今年は雪が多いですが、そちらはどうですか?」
「体の調子はいかがですか?」
「困っていることはないですか?」
この岩手には、公園の水道から水をペットボトルに入れて運んで飲み水にして生活している人がいます。
冬は公園も使えなくなります。
それは、おじさんのせいですか?
だれとも話さなくなった人がいます。
みなさんはどう思いますか?
次回は、「猫と暮らすアスペルガーおじさん」をお伝えしたいと思います。